【もうすぐAppleの傘下】してやったりのBeatsの闇=その4

【もうすぐAppleの傘下】してやったりのBeatsの闇=その4

【もうすぐAppleの傘下】してやったりのBeatsの闇=その3からの続きです。

appleとbeatsは?
appleとbeatsは?

早晩Kevinは完全に首が回らなくなってました。父親の会社の未来を上司の許可もなしに決めてしまった…それも動かぬ確証もないまま突き進んでしまったんです。「あの時点では儲けがいくらで、価格がいくらで、コストがいくらかも、まるで見当がつかなかった」(Kevin)。手探りのまま、Kevin Leeは極秘で全製品ラインを開発してゆきました。提携先が本当に動くという事業提携契約もしっかり結ばないうちに。Beats By DreはDreから作っていいと許可が出る前に作ってしまってたんです。それに気づいた時にはKevinもパニックになります。「業務命令違反どころの話じゃない。親父の信用を失うことは目に見えていた。もう在庫を何百万ドル(何億円)分も抱えこんでいた。こんなことがバレたら親父に殺される、そう思ったよ」(Kevin)

Kevin Leeは、是が非でも契約を取らないと金銭的にも家庭的にも一巻の終わり、という瀬戸際に立たされていました。もうこうなれば条件は言われるままにのむ以外ありません。こうして飛びついた契約書は「インタースコープ史上前例のない複雑極まりない契約内容」でした。毎日毎日インタースコープに少しでも有利な条件で契約をまとめることしか考えてない企業お抱え弁護士の大軍団が書いた契約書を、大学で学んだ文系の知識を総動員して読むKevin。

交渉事に両成敗はありえません。モンスターはBeats Electronics社を今後も存続させたまま、そこがヘッドフォンを出荷するという条件で契約書にサインします。が、そこには巨大な権利剥奪条項がありました。それまでにモンスターが開発したものはすべてBeatsのJimmyとDreの側に権利を譲渡する、という条件です。全ヘッドフォン、全ヘッドバンド、全イヤーカップ、全ドライバー、全リモコン、Beats By Dreに付属する金属なりプラスティックの破片があればそれも全部、Lee父子の権利はすべてJimmyとDreに譲る、という条件だったのです。

ああ因みに、製品の製造はすべて、モンスターの責任です、配送も。製造と配送という最も金がかかる部分はモンスターなのです。「ちょっとDr. Dreで怖気づいちゃったんだよね」と、お子様サイズのチキンヌードルを啜りながら白状するKevin Lee。隣のNoelパパは無言で座ってます。

「製造も配送もモンスターならチームDreは何すんのさ?」

不思議になりますが、DreはDreをやるまでです。何ヶ月もかけて開発後、Kevin Leeはやっとできた最終版No.1を持ってDreのもとに馳せ参じます。

Dreはおもむろにこれを被って、「In Da Club」を聴き、「That’s the shit(クソヤベー*)」とひとこと発します。その鶴のひと声で晴れてBeats By Dreに青信号が灯ったのでございます。

Kevin Leeは宣伝・エヴァンジェリスト活動に大勢のミュージシャンを動員したいと思ってました。タカピーなオーディオマニアの世界からジャーゴン取っ払ってモールで普通に売ってるみたいな製品にしたい、と彼なりに野望を抱えていたのです。Nelly Furtadoが音の歪みの重要性と危険性を語り、 Robin Thickeが高音の価値について耳元で囁く、みたいな。でもそういう展開にはなりませんでした。

Dr. Dre配下の特殊部隊がモンスターのオーディオギアを持ち歩いて、暇さえあれば無敵のステータスシンボルだってアピールしたんです。

IovineはKevin Leeにこう言いました。 マーケティングは時間がかかり過ぎる、教育も時間がかかり過ぎる、そうじゃなくてみんなに魔法をかけちゃえばいいのさ、Beatsがこれからは『一番イケてる製品で、このサウンドがトロイの木馬なんだ』って虜にする戦略さ。「僕らがやったのはまさにそれだった。ミュージックビデオというビデオにBeatsが出るようになったんだ」(Kevin)。Iovineは自社のインタースコープが抱える一流スターの動画にBeatをプレースメントし、ボケーッと動画観る半分腐りかけのアメリカ人の脳みそにガンガン製品イメージを叩き込んでいったのです。

これは効果テキメンでした。世の中に眠ってた可処分所得が何億ドルとこれに投じられます。「若者が家電量販店Best BuyにBeats買いにいくのはサウンドがクールだからじゃなく、それを身に着けてると自分がクールに見えるからなんだよね」と、これはKevinも認めてます。Lee父子はオーディオ愛好家の評価も面子も棚上げでファッション会社のような売り方をしたのです。こうしてBeatsは瞬く間に市場を席巻しました。路上はbだらけ。JimmyとDreはローエンドの音で外界のノイズと遮断してくれるヘッドフォン、長く歩いてもまあまあ頭に快適なヘッドフォンをせっせと売り、世の中もラッパーの眩しいオーラのもとにそういうクオリティーの細かいことなんてどうでもいいやって雰囲気になっていきます。「Beatsは誇大広告で値段も高過ぎるかもしれないけど、別にスニーカーじゃないんだし、音のことなんて複雑でわからないし、どうせちっちゃい電化製品でしょ」というノリで受容されていくわけですね。こうして開発に何億円もかけ、何ダース分も試作機をつくり、IovineとKevin Leeの間で何年も行ったり来たりした果てにBeatsは大ブレイクしたのでした。

しかしモンスターの提携相手に話を伺うと、KevinとNoelの役割りなんてFedExとFoxconnに毛の生えたようなものだ、という答えが返ってくるんですよね。知名度は高いけど、ただ作って配送センターに届けるだけの集団、という認識なんです。それどころかBeats Electronicsはヘッドフォンの製品の意匠やオーディオ設計の面でモンスターはなんらの貢献もしてない、と関与をも否定しています。「うちにはうち独自の工場がある。すべて当社のコントロール下にある。サウンドも…最初からずっと当社のものだ-―当社には当社独自のサウンド関連特許もある」というのが同社側の言い分。「当社のものに間違いない」 と、Beats Electronics CEOのLuke Woodは何度も繰り返し言うんですね。全員今も友だち関係は続いてるとは言うんですが、モンスター側の友だちが担当してるのは単に、「外注」のパートで、Beatsのサウンドの「チューニング」の指示に従って「原料」を選定するところだけだ、というのです。

最後に続く

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